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福岡地方裁判所 平成9年(行ウ)8号 判決 1999年3月18日

主文

一  被告福岡県知事が、原告に対し、平成八年二月二三日付けでした別紙文書目録一記載一ないし五の文書部分を開示しないとした各処分のうち、次の部分をいずれも取り消す。

1  別紙文書目録一記載一のうち、債権者(業者、請求者、店、問い合わせ先、担当者等を含む。)の振込先銀行名、同支店名、口座の種別、口座番号、口座名義が記載されている部分を除いた部分

2  同目録記載二、三の全部

3  同目録記載四のうち、別表1記載の各非開示部分を除いた部分

4  同目録記載五のうち、出勤簿中の現住所欄の記載部分を除いた部分

二  被告福岡県代表監査委員が、原告に対し、平成八年二月二三日付けでした別紙文書目録一記載六ないし一〇の文書部分を開示しないとした各処分のうち、次の部分をいずれも取り消す。

1  別紙文書目録一記載六のうち、出勤簿中の現住所欄の記載部分を除いた部分

2  同目録記載七、八の全部

3  同目録記載九のうち、職員数欄、その下部、自己監査の概要欄の記載部分を除いた部分

4  同目録記載一〇のうち、債権者(業者、請求者、店、問い合わせ先、担当者等を含む。)の振込先銀行名、同支店名、口座の種別、口座番号、口座名義が記載されている部分を除いた部分

三  被告福岡県知事が、原告に対し、平成九年一月二二日付けでした別紙文書目録一記載一二の部分を開示しないとした処分を取り消す。

四  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用はこれを五分しその一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告福岡県知事が原告に対し、平成八年二月二三日付けでした別紙文書目録一記載一ないし五の文書部分を開示しないとの処分並びに平成九年一月二二日付けでした同目録記載一一及び一二の文書部分を開示しないとの処分をいずれも取り消す。

二  被告福岡県代表監査委員が原告に対し、平成八年二月二三日付けでした別紙文書目録一記載六ないし一〇の文書部分を開示しないとの処分を取り消す。

第二福岡県情報公開条例

本件訴訟の理解に必要な限度で、福岡県情報公開条例(昭和六一年福岡県条例第一号。ただし、平成九年福岡県条例第六二号、第六八号による改正前のもの。以下「本条例」といい、特に断らないで条文のみを摘示するときは、本条例を指す。)の内容を示すと次のとおりである(当裁判所に顕著な事実)。

一  第一条(目的)

この条例は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにし、併せて情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政への参加のより一層の促進を図るとともに、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した公正で開かれた県政の発展に寄与することを目的とする。

二  第二条(定義)

1  この条例において「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム、録音テープ及びビデオテープであって、決裁又は回覧等の手続が終了し、実施機関において管理しているものをいう。

2  この条例において「実施機関」とは、知事、公営企業の管理者、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会をいう。

三  第三条(解釈及び運用)

実施機関は、県民の公文書の開示を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされないように最大限の配慮をしなければならない。

四  第九条(開示しないことができる公文書)

実施機関は、開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができる。

1  一号

個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ 法令の定めるところにより、何人も閲覧することができる情報

ロ 公表を目的として作成し、又は取得した情報

ハ 法令の規定に基づく許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

2  二号

法人その他の団体(国及び地方公共団体その他公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ 法人等又は個人の事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体又は健康を保護するため、開示することが必要と認められる情報。

ロ 法人等又は個人の違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある消費生活の安定に対する支障から消費者を保護するため、開示することが必要と認められる情報

ハ イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、開示することが公益上特に必要と認められるもの

3  三号

県の機関内部若しくは機関相互間又は県の機関と国又は他の地方公共団体その他公共団体(以下「国等」という。)の機関との間における審議、検討、調査研究等に関する情報であって、開示することにより、当該又は同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

4  四号

県の機関と国等の機関との間における指示、依頼、協議等に係る事務事業に関する情報であって、開示することにより、国等との信頼関係又は協力関係を著しく損なうと認められるもの

5  五号

県の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、検査、許可、試験、入札、交渉、渉外、争訟その他の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の実施の目的が失われ、その公正かつ適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの又は当該事務事業に関する関係者との信頼関係若しくは協力関係が著しく損なわれ、その円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

第三事案の概要

一  争いのない事実等

以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は弁論の全趣旨により認めることができる。

1  当事者

原告は、福岡市内に事務所を有する市民団体(権利能力なき社団)であり(弁論の全趣旨)、被告らは、二条二項の実施機関である。

2  公文書開示の請求

原告は、被告らに対し、本条例に基づき次の各請求を行った(以下「本件各開示請求」という。)。

(一) 平成八年一月二五日、被告福岡県知事(以下「被告知事」という。)に対する別紙文書目録二記載一ないし五の各文書(以下、同目録記載の各文書を番号順にそれぞれ「本件文書一」、「本件文書二」等といい、右各文書を総称して「本件各文書」という。)の開示請求

(二) 同日、被告福岡県代表監査委員(以下「被告監査委員」という。)に対する本件文書六ないし一〇の各文書の開示請求

(三) 平成九年一月八日、被告知事に対する本件文書一一及び一二の開示請求

3  被告らの決定等

本件各開示請求に対し、被告らは、次の各処分(以下「本件各処分」という。)を行った。

(一) 被告知事が行った処分

(1) 平成八年二月二三日、九条一号、二号及び五号に該当するとの理由で別紙文書目録一記載一の文書部分(以下、同目録記載の各文書部分を番号順にそれぞれ「本件非開示部分一」、「本件非開示部分二」等といい、右各非開示部分を総称して「本件各非開示部分」という。)を非開示とした処分

(2) 同日、九条一号に該当するとの理由で本件非開示部分二、三及び五を非開示とした処分

(3) 同日、九条一号ないし五号に該当するとの理由で本件非開示部分四を非開示とした処分

(4) 平成九年一月二二日、九条三号及び五号に該当するとの理由で本件非開示部分一一を非開示とした処分

(5) 同日、二条の公文書に該当しないとの理由で行った本件非開示部分一二に関する公文書不存在決定

(二) 被告監査委員が行った処分

(1) 平成八年二月二三日、九条一号に該当するとの理由で本件非開示部分六ないし八を非開示とした処分

(2) 同日、九条一号、二号及び四号に該当するとの理由で本件非開示部分九を非開示とした処分

(3) 同日、九条一号、二号及び五号に該当するとの理由で本件非開示部分一〇を非開示とした処分

(三) (1)右(一)(1)ないし(3)、(二)の各処分は、いずれも平成八年二月二六日原告に通知されたが、原告は、同年四月二三日異議申立てを行い、福岡県情報公開審査会に係属中である。

(2) 右(一)(4)、(5)の各処分は、いずれも平成九年一月二四日原告に通知された。

4  本件請求

本件は、本件各処分に対し、原告が、本件文書一二は公文書に該当し、本件各非開示部分は九条各号に該当しないから、本件各処分は違法であると主張して、それらの取消しを求めている事案である。

二  被告らの主張

1  本案前の主張

(一) 被告知事は、原告に対し、本件文書一二につき非開示処分を行っていない。

(二) 本件文書一二は、職員が手控えとして作成したメモ類、あるいは個人で開設した銀行預金口座の通帳等について、不適正な公金支出の旅費問題調査委員会(以下「調査委員会」という。)による全容解明のために、同委員会事務局が各所持者に任意の提出を求めて預かることとなった資料であり、その性質上最終的には各提出者に返還されるべきものである。したがって、本件文書一二は、二条の公文書ではない。

(三) そこで、被告知事は、原告に対し平成九年一月二二日、本件文書一二につき二条に定める公文書が存在しない事実を通知したものであり、右通知は行政処分ではない。

2  非開示理由等

(一) 九条の解釈について

公文書の開示を求める権利は、一条に規定する目的の下に地方自治権に基づいて制定された本条例により具体化されたものであるから、右開示を求める権利は、本条例の立法趣旨や文言・文理に従って解釈されるべきであり、右文言・文理から離れた解釈や効果を導き出すことはできない。したがって、九条についても文言・文理に従って解釈されるべきであり、それを超えて限定的に解釈すべきであるかのごとき原告の主張は失当である。

(二) 九条一号(個人情報)について

(1) 公私の区別について

同号の趣旨は、個人に関する情報が記録された公文書を原則的に非開示としたところにあり、同号本文にいう個人に関する情報の内容については、公私の区別は設けられていないし、公私の区別の余地もない。

本条例の制定のための審議、検討においては、①個人情報は原則的に公開せず、特定の場合に例外的に開示できるものとしたうえで、②規定の方法も本文で個人情報一般を適用除外とする一方、但書で例外を設ける形式とし、かつ③公職者等について特別の定めを設けないものとされている。

(2) 同号の規定の解釈について

本条例制定のための審議、検討では、「一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる」との文言は、解釈の幅があり過ぎ、明確さに欠けるとして採用されなかったものであり、同号の規定を右文言のように解釈することは失当である。

膨大な個人情報を保有する行政機関がそれを適正に保護する責務は重大である。

そして、何が「他人に知られたくない」情報に当たるかは情報主体である個々人の価値観等によって異なる。したがって、個人情報については、実施機関が一方的に開示・非開示を判断できるものではなく、専ら条例の規定に即して解釈・運用されるべきである。

(3) 公務員の公務遂行上の情報について

右情報については、個人的な性質が一切ないということはあり得ず、その意味で公私の区別をつけがたいものであるし、一切保護する必要がないと言い切れるものでもない。

さらに福岡県(以下「県」ということがある。)が行う事務事業の内容によっては、それを遂行する者を特定することで当該県職員が不当な個人攻撃の対象とされる危険性は否定できない。

同号は、平成九年福岡県条例第六八号によって改正され、但書にニ、ホが新設された。同号但書ニは、公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職及び氏名について開示義務を認めたが、同時に同条二項において、当該個人の利益を不当に侵害しないようにしなければならないと規定している。これは公務員の公務遂行上の情報が個人の私生活等に影響を及ぼす可能性を有する情報でもあるため、これを保護する必要があることを明らかにしたものである。

公務員が公務としてなした以上およそ個人に関する情報に含まれる余地がないという見解は、一旦侵害されると回復困難な損害を被るプライバシーについて予測しがたい権利の侵害が生ずることを全く顧慮しないものであり、誤っている。

(4) 特定の個人が識別され又は識別され得る情報について

この点は以下のように整理することができる。

まず、住所、氏名、電話番号、個人別に付与される番号等が挙げられる。

当該個人の所属、職務の級、職名についても、例えば職員録等と照合することにより間接的に特定の個人を識別しうる情報となる。出張に係る用務についても、例えば職名の明示等その記載如何によっては特定の個人を識別しうる情報となる。

出勤簿は、個人ごとに簿冊形式で作成され、そこに記載される出張、休暇等の印や集計表は、当該公務員の住所氏名等の記載と一体となった情報である。したがって、出勤簿の記載全部が個人に関する情報であり、かつ、特定の個人を識別できる情報に当たる。

このように被告らが九条一号によって非開示とした情報は、全て同号本文に該当する。

(5) 同号但書について

被告らが非開示とした情報のうち、同号但書イ、ハに該当するものはない。

但書ロについては、公表を目的としたか否かは、特に明示がない場合でも、当該情報が記録された文書の作成目的から合理的に判断することができる。

本件文書一、一〇は、県の事務事業の実施及びそれに伴う公金支出について内部的な決裁を受けるために出納手続の過程において作成又は取得される文書であり、公表を目的としないものであったのであり、右各文書に記録された個人に関する情報は、公表を目的としないものであった。

本件文書二ないし四、七ないし九は、当該県職員の出張に関しその旅行命令から復命に至るまでの過程について内部的な事務処理上必要な事項を記載した文書であり、公表を目的としないものであったのであり、右各文書に記録された個人に関する情報は、公表を目的としないものであった。

本件文書五、六は、出勤簿である。

出勤簿は、県職員ごとに作成され、そこに表示される出勤の押印や出張・休暇等の記載等は、当該県職員の氏名から離れて各個独立して意味を持つものではない。

出勤簿記載の事項は、当該県職員にとって優れて個人に関する情報であり、全ての情報が一体となって個人を識別することができる情報である。

出勤簿の作成目的は、出勤、出張、職務専念義務免除等の事項に止まらず、各種の休暇の取得、病欠、欠勤、遅刻、早退等を含めた当該職員の全体的な服務状況を把握することにあり、人事や給与計算等の資料ともなるものである。したがって、出勤簿記載の事項は、公表を目的としたものではなく、九条一号但書ロには該当しないし、同号イ、ハにも該当しない。

(6) よって、本件各文書に記録されている情報は、全て九条一号本文に該当し、かつ同号但書に該当しない。

(三) 九条二号(事業情報)について

(1) 同号の趣旨

同号は、企業等の法人や個人事業者の自由な経済活動その他正当な活動を保障するという観点から、情報を開示することにより事業者の競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められる情報については開示しないことができることにしたものである。

本条例に基づく請求により情報が開示されると、以後はその態様・目的の如何にかかわらず、当該情報の他への公表等の二次的利用について当該事業者は全く対応する手段を持たない。そして、開示を求める権利は広く認められているので(五条)、実施機関としては、ある情報が同号に該当するか否かについて、当該情報の形式的内容のみでなく、事業活動における当該情報の位置付け等にも十分留意しつつ慎重に判断する必要がある。

(2) 食糧費について

食糧費については、協議、懇談の場所を提供した債権者名(飲食業者)等は、次の点で競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められる情報に該当するため、あらかじめ開示することが前提となっていない限り、実施機関が開示すべきではない。

第一に、利用者(いわゆる客筋)に関する情報は、その蓄積によって業者自身の社会的評価の形成につながる。

第二に、飲食業者にとって、どの客にいくらで飲食を提供しているかという事柄は、場合によっては是非とも秘匿したい情報である。右情報は、ノウハウに類似し、これの開示により、利用者から料金について不平や不満が出たり、根拠のない疑いをかけられたりするおそれがある。

第三に、県から当該業者にいくら支払われているかが明らかになり、当該事業者の経理内容の一部が第三者たる県から漏らされることになり、信用性が損なわれるおそれがあるばかりでなく、商道徳にも反し、当該事業者の債権者から代金請求権を差し押さえられるなどの不利益を受けるおそれもある。

そして、食糧費等の支出に関する情報は、同号但書に定める人の生命、身体等の保護、消費者の保護等の事項には該当しない。

(3) 債権者番号及び口座に関する情報について

債権者番号は、事業者(債権者)が事業を営む上で必要かつ重要な内部事項に属する情報である。右番号は、県が債権者への支払等を行うために債権者ごとに付したものであって、債権者が取引に関する情報について照会する際に必要な、いわば「暗証番号」としての性格をも有する。右番号は、県に対して債権を有する者についての極めて内部的で用途が限定された番号であり、県が債務管理に用いるだけでなく、債権者たる事業者自身にとってもその同一性を表現するものである。右番号には当該事業者の名称、所在地、電話番号、口座に関する情報等が結び付けられている。

右番号及び口座に関する情報は、事業者(債権者)が事業を営む上で必要かつ重要な内部事項に属する情報であり、事業者としては、およそ取引関係のない不特定かつ多数の者にまで公開されるとは予想しておらず、右情報の悪用、濫用によって当該事業者の営業上の金銭管理等に支障や混乱を来すおそれがある。したがって、右情報は、開示することによって競争上の地位その他の正当な利益を害するものである。

(4) 原告主張の同号の解釈について

同号は、実施機関が開示しないことができる公文書を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用なる技術上又は営業上の情報にして公然知られていないものに該当する情報であって、それらに実質的な被害が客観的に生じる場合に限られる」というように限定するものではない。

本条例は、九条各号に該当する情報については原則公開の例外として、実施機関に右情報を開示しない権限を与えている。そして実施機関は、右権限に付随して開示を求められた情報が当該事業者にとって競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められる場合には、開示・非開示を慎重に判断すべき義務を負っている。

(5) 本件非開示部分九について

本件非開示部分九に記載されている情報は、監査対象となった財政的援助団体等に関する調査報告書の中の「職員数」欄に記載された構成員の数といった人事に関するもの及び「自己監査の概要」欄に記載された内部監査の結果等、いずれも財政的援助団体等の内部事項に関する情報である。右情報は、法人その他の団体に関する内部情報であって、これを開示すると当該団体等の正当な利益を害することとなる。

(6) よって、本件文書一、四、九、一〇は、いずれも九条二号本文に該当し、かつ同号但書に該当しない情報が記録された公文書である。

(四) 九条三号(行政内部情報)について

(1) 同号の趣旨

行政における内部的な審議等の意思形成過程における情報は、県民参加の県政推進という情報公開制度の趣旨・目的からは、可能な限り開示されるべきである。

しかし、右情報の中には、担当者レベルの検討素案や機関の意思が未決定の検討案のように未成熟・不正確な情報がある。右情報がそのまま開示されれば県民に不正確な理解や誤解を与えたり、一部の利用者に不当な利益を与えるおそれがある。

また開示されることで、現在行われている企画、審議等における自由闊達な意見交換が妨げられたり、将来の同種の企画、審議等において自由な意見交換が期待できなくなることが考えられる。

さらに、行政の意思形成過程における企画、審議等に当たって、検討材料として外部から信頼関係・協力関係に基づき任意に提供されたもので公にしないことが前提とされる情報もある。右情報が開示されれば、情報を提供した第三者との信頼関係・協力関係を損ない、以後の審議等の際の情報収集に支障を来す可能性が極めて高い。

そこで、同号は、右の点を考慮して、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から規定された。

(2) 本件文書四について

本件文書四には、実施された協議会等の内容として、行政の意思形成過程における協議に関する情報が含まれている。行政の意思決定に至る検討段階の情報を開示すれば、県民に不正確な理解や誤解を与えたり、右検討段階での自由な意見交換を妨げたりすることとなり、主要な食糧である米穀の生産者から消費者までの計画的な流通の確保等をするための行政内部における審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれがある。したがって、本件文書四は、「開示することにより、当該又は同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれ」のある、同号に該当する文書であった。

(3) 本件文書一一について

調査委員会は、「福岡県旅費問題調査委員会設置要綱」に基づいて設置されたものであり、非常勤特別職として委嘱された学識経験者四名、副知事二名、出納長及び総務部長の計八名により構成された委員会であった。調査委員会の設置目的は、知事部局における旅費の執行状況の実態を調査し、適正化のための方策を検討することにあった。このように調査委員会は、県の機関である。

本件文書一一は、旅費問題についてその実態を調査したうえで旅費執行の適正化方策を提言し、併せて県における旅費執行の改善方策を検討、実施する過程において作成されたものであり、「審議、検討、調査研究等に関する情報」に該当する。

右文書は、調査委員会が県職員個々人に対し、その信頼関係に基づき当該県職員等の旅費支出が実態に合致するか否かにつき、当該県職員等に関する情報を公にしないことを当然の前提として調査し、これに基づいて所属単位ごとに集計した文書である。これが公開されると、他の情報と組み合せることによって個々の県職員等を特定できる可能性が高く、組織全体が慣行として行ってきたことの責任が当該県職員の責任追及や非難に転嫁されるおそれが強い。そうなれば調査に協力した県職員等との信頼関係を著しく損ない、事後同種の調査が全く無意味なものとなる。

本件非開示部分一一の非開示処分がなされた当時、調査委員会は、県職員等に対するヒアリングを実施するなど委員会活動を継続しており、本件非開示部分一一を開示することによって、個人的非難を恐れて調査委員会の調査に応じない者が出てくる等の可能性があり、審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれがあった。

また、右非開示処分当時、県は、県職員や退職者から返還させるべき旅費の額の確定調査を行っていた。右時点で右非開示部分を開示すれば、自己に不利益となる情報の提供を含め、調査に誠実に対応した県職員等の信頼を損ない、右確定調査を拒否する者が出る等して、右確定調査の目的が達成されなかった可能性が大きく、また返還方策や改善策の策定等に著しい支障が生ずるおそれがあった。

したがって、本件文書一一は、「開示することにより、当該又は同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれ」のある、同号に該当する文書であった。

(五) 九条四号(国等関係情報)について

(1) 同号の趣旨

県の行政は、国及び他の地方公共団体の行政と密接に関係し合い、信頼関係、協力関係を維持しながら遂行されており、そこで行われる指示、依頼、協議委託、照会等に係る情報の中には国等の機関が公表せず、あるいは公表を禁じた情報も含まれている。このような情報を開示すると国等との信頼関係、協力関係を著しく損なうため、同号は、これを防止するためこれらの情報を開示しないことができるとした。

(2) 本件文書四について

県農政部農業振興課(以下「農業振興課」という。)が所管する主要な食糧である米穀の生産者から消費者までの計画的な流通の確保等をするための事務は、国、都道府県、市町村が相互に密接に協力し、農業団体や営農家に対する指導等を行うことによって初めて達成されるものである。右の目的で開催される会議等において行われる指示、依頼、協議、委託、紹介等に係る情報の中には、国等の機関が公表せず、あるいは公表を禁じた情報も含まれている。

本件文書四は、国等の機関との間で実施された協議等に関する復命書である。右協議等は、相互の信頼関係に基づく忌憚のない意見交換や事例紹介、検討を目的としており、かつ、それらは協議等の相手方である国等の機関が公表していないものである。本件文書四を開示すれば、国等との信頼関係、協力関係を著しく損なう。

したがって、右文書は同号に該当する。

(3) 本件文書九について

本件文書九は、他県との協議会等への出席に係る復命書であり、国等との協議等に係る情報が記載されている。右協議会等は、監査委員制度の独立性、監査業務の特殊性、公正・妥当な判断の確保等のために必要不可欠のものであり、本件文書九には機関相互の信頼関係に基づき、公表を予定していない他の機関の状況に関する情報が記録されており、右情報のうち、出席に係る機関名及び氏名等についても全く公表していない。したがって、本件非開示部分九を開示すると、国等との信頼関係、協力関係を著しく損なうことになるため、右非開示部分は同号に該当する。

(六) 九条五号(行政運営情報)について

(1) 同号の趣旨

同号は、事務事業の公正かつ適正な執行又は円滑な執行を確保する観点から規定された。同号列挙の事務事業は例示にすぎないが、そのうち取締り、監督、検査に関する情報とは、法令に基づく取締り、監督、検査、指導、監査、調査等の事務事業における計画や方針、内容に関する情報をいう。

県の機関が行う事務事業に関する情報を開示することにより、当該事務事業の実施の目的を失ったり、その公正かつ適正な執行に著しく支障を生ずることを防止するために同号前段が規定された。また、県の機関等は、事務事業を執行する過程において第三者との信頼関係、協力関係に基づく任意の協力による情報を得ている。

そこで、同号後段は、右情報を開示することによってその関係を著しく損なうことを防止する趣旨で規定された。

(2) 本件文書一について

県土木部道路建設課(以下「道路建設課」という。)の行う事務事業は、県内における県道等の新設・改良整備のほか、道路建設に関する計画、調査、設計協議等があり、その実施に当たっては、事前に多数の関係機関との間で密接な協議や意見交換を必要とする。

また、県では、地元住民等からの強い要望を受け、国の補助金等を主な財源として道路整備を推進しているが、国の予算は限られており、道路整備の推進を図るためには国の事業や予算に関する状況や方針等の情報を迅速かつ的確に把握し、それに適時、適切に対応していく必要がある。

右協議等については、その目的や相手方が公表されると、利害関係人等に当該事務事業等に関する情報を与えたり、無用の誤解や憶測が生じたりして当該事業及び以後実施される同種の事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を来すことになる。

右協議等においては、相手方との信頼関係に基づいて任意の情報提供を受けることが不可欠であり、相手方の氏名等が公表されること自体、その信頼関係を著しく損なうこととなる。

本件文書一には、協議懇談の相手方団体等に関する情報(団体等名、職・氏名)に加え、協議懇談の具体的なテーマが記載されており、特定の地域・路線名等の記載もある。

道路整備事業は、地域に与える影響が大きいため、特定の道路整備事業に関する情報が明らかになれば、用地取得をはじめとする一連の事業の公正かつ適正な執行に著しい支障が生ずるおそれがある。

また、右情報を開示することにより特定の事業計画等が明らかになれば、当該事業の公正かつ適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。

(3) 本件文書一〇について

監査制度は、国の指導・監督に馴染まず、監査業務は、県の他の機関との協力・共助を回避して行わなければならず、被告監査委員が独善に陥ることなく、効率的で的確な監査業務を遂行するためには、他の都道府県の監査委員との意見交換、情報交換が不可欠である。

そこで、被告監査委員は、他の都道府県と互いに収集した資料や未確定あるいは検討段階にある情報を交換したり、監査の実施方法等をテーマとする協議懇談をしている。

右協議懇談は、双方とも公表を予定しないで行ったものであり、他の都道府県の出席者の職・氏名等の情報であっても、県が一方的に開示すれば、他の都道府県等との信頼関係、協力関係を著しく損ない、任意の情報提供が得られなくなる等、業務の円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。

右協議懇談の内容である監査の実施状況等に関する情報は、最も基本的かつ重要な事項であり、監査実施の前後を問わず、右協議懇談の目的を開示すれば監査業務の公正かつ適切な実施に著しい支障を来すことになる。

(4) 協議等の開催場所に関する情報について

右情報は、それが開示された場合、開催場所を比較することによって県の相手方に対する評価、位置付けが明らかとなり、相手方が県の評価、位置付けを一方的に推測し、不快、不信、不満の念を抱き、県と相手方との間の信頼関係、協力関係を著しく害し、相手方が今後県の行う同種の協議等への出席を避ける等のおそれがある。

(5) 本件文書四について

農業振興課は、米穀の適正な流通を確保するために、法令に基づき米穀販売の許可に関する事務や、米穀の不正規流通に関与する業者に対する取締り、監督、検査に関する事務を所管している。右の事務事業の執行に当たっては、国等の機関との間で米の需給調整や割当計画等について、相互の信頼関係に基づいた協議や情報交換を行い、そこで得られた情報は国等において公表していない。

本件文書四には、右事務事業を執行するための国等の機関との間における審議、検討、協議等の経過や結果が記録されている。このような情報を開示すると政府米の計画的な流通が阻害される等、当該事務事業の実施目的が失われ、その公正かつ適正な執行に著しい支障を来すことになる。また、右情報の開示により、国等の機関との信頼関係を著しく損なうことにもなる。

(6) 本件文書一一について

県は、旅費の不適正支出問題について、その実態を調査するとともにその調査結果をふまえて必要な措置を講じ、かつ、再発防止及び適正化の方策、制度の改革を策定することとした。右調査等は、県の事務事業であり、かつ、一連のものである。

本件文書一一は、調査委員会の実態調査により得られた情報を記録したものであるが、当該調査の目的は、県において改善方策が実施されることによりはじめて達成されるもので、その情報は、右調査から制度の改革に至る一連の県の事務事業に関する情報たる性格を有する。

調査委員会は、調査結果の公表に当たっては、今回の不適正支出の問題が制度と実態との乖離等様々な原因の複合的作用の結果発生したものであることにかんがみて、組織全体が慣行として行ってきたことの責任が個人への非難に転嫁されるおそれのある形での公表を避け、かつ今後の県の組織運営に配慮して、各部ごとに集計したもののみを公表し、各所属単位での集計結果は、これを公表しなかった。

本件非開示部分一一を非開示とする処分がなされた当時は、調査委員会自体の調査が完了していなかった上、県では不適正支出に係る旅費の返還に関する事務事業に着手したところであったものであり、県の一連の改善方策の実施は、現在もなおその途上にある。

右非開示処分がなされた当時に右集計結果を開示することは、公表についての調査委員会の前記決定に反し、かつ、自己に不利益な情報を任意に提供した県職員、退職者等との信頼関係を損なうこととなる。

個人の責任追及や個人的非難をもたらすおそれが強い情報を公開することは、県職員の県に対する不信、県職員相互間の不信等から組織の混乱を招き、県の事務事業たる旅費支出に関する一連の改善、改革の実施及び定着が遅延したり停滞したりして、その執行に著しい支障を来すことになる。この影響は、県の事務事業全般に及び、ひいては県民全体の利益をも損なうことにもなる。

(7) したがって、本件文書一、四、一〇及び一一は、いずれも九条五号に該当する情報が記録された公文書である。

(七) 本件文書一二について

本件文書一二は、いわゆる「補助簿」、預貯金通帳、メモ、ノート、領収書、振込依頼書等(ただし、県が保全したもの。)であるが、これらの文書は、二条一項の「公文書」でなく、これを理由として本件文書一二につき公文書不存在の通知をしたことは正当である。

(1) 「職務上」の作成又は取得について

いわゆる「補助簿」は、出張の予定についての手控えの類であり、その後の変更等に対応し、旅行命令簿への記載のための下書きでもあり、作成されていない所属も多く、記載方法等も多様であった。

預貯金通帳は、県職員が個人的な判断に基づき、個々に開設した預貯金口座の通帳であり、当該個人に帰属するものである。右通帳の銀行印等の印影も個人の印章によるものである。

メモ、ノートは、県職員が自らのために備忘録として作成した個人の手控えであり、領収書、振込依頼書等は、これに添付される等したものである。

したがって、本件文書一二は、職員個人が専ら自らの判断で記録する等したものであり、当該職員が廃棄等も行うことができるものであり、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した」文書ではない。

(2) 「取得」について

二条一項の「取得」した文書に該当するには、当該文書を確定的・最終的に保持し、廃棄といった処分も自らの判断でなし得ることが必要であり、実施機関が現に保持している文書であっても、預かり保管しているものや他への返却等が予定されているものは、取得したものとは認められない。

本件文書一二は、調査委員会の設置目的達成のため、調査資料とする目的で保全され、提出を受けたものであり、確定的に取得されたものではないし、その必要もなかった。

三  原告の主張

1  非開示事由の有無の判断について

(一) 厳格な解釈の必要性

本条例は、福岡県民の知る権利、参政権を実質的に保障し、福岡県政の公正な執行と県政に対する県民の信頼を確保するために制定されたものである。

公文書開示請求権は、民主主義上の重要な地位を占め、憲法上の要請に基づいた極めて重大な権利であり、本条例は、この点を踏まえて制定されたものである。

本条例の非開示事由の有無の判断が行政機関の主観的判断に委ねられると、行政機関の非開示事由の恣意的な解釈・運用により非開示部分が不当に拡大し、情報公開制度の実質的意義が失われる。

そして、本件非開示部分一ないし一〇は、公金が不正に支出されたことを示す部分である。

したがって、本条例の非開示事由の判断は厳格に解釈されなければならない。

(二) 知る権利等に対する配慮の必要性

本条例の開示義務免除条項該当性の判断は、知る権利・参政権等憲法その他の全法体系との整合性や本条例の目的(一条)、解釈及び運用(三条)、非開示決定を行政処分と構成し、理由付記を求め、いわゆる時限秘についても定め(七条)、部分開示(一〇条)、情報公開の総合的推進(一五条)、情報提供施策の拡充(一六条)等を定めた本条例全体との整合性に配慮してなされるべきである。

(三) 本件各非開示部分の内容等の特定の必要性

被告らは、本件各非開示部分のどの部分が九条各号のうちのどの号により非開示とすることができるのかについては主張していない。本件各非開示部分が部分開示義務すら免除されているか否かについては、本件開示部分の内容・趣旨・記載の程度等が特定されなければ判断できず、被告らには右特定のための主張、立証をする義務がある。

2  九条一号(個人識別情報)について

(一) 同号の趣旨

同号は、個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的として規定されている。

したがって、同号の「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」とは、一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる特定の個人に関する情報を指す。

すなわち、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、同号には該当しない。

(二) 本件各文書とプライバシーとの関係

公務員の地位にある個人のプライバシーが問題となるのは、その公務員の私人としての側面についてであり、公務員が公務としてなした以上、プライバシーが問題となる余地はない。

本件各文書については、懇談の実施や公務出張に関する情報が公務に関する情報か私生活に関する情報のいずれに該当するかが問題となるのであり、この判断は容易である。

したがって、本件非開示部分五、六は、福岡県職員の出勤簿で、公務員の公務の出欠状況を記載したものにすぎないから、プライバシーが問題となる余地はない。

本件非開示部分一、一〇は、県の食糧費の支出に関する資料であり、本件非開示部分二ないし四、七ないし九は、県の旅費支出に関する資料である。

公務員が公務として公的会合や公務として旅行等に参加している以上、この場合もプライバシーが問題となる余地はない。

公的会合等公務に参加した県職員はもちろん、その相手方たる行政庁の公務員やそれに準ずる者は、公務員として公務である懇談会に参加した以上、私生活上の事実とは無関係であるから、個人のプライバシーの権利は侵害されない。

そして、県の事務事業を遂行する県職員を特定することにより同人が不当に個人攻撃の対象とされる危険性については、同号該当性の問題ではなく、九条五号該当性の問題である。

また、懇談の相手方が私人であっても、右懇談会は、公費による公的会合であり、いわば公務に準ずる公益的事業に関するものであって、私生活上の事実に関する情報ではないから、これが開示されたからといって個人のプライバシーの権利は侵害されない。

県職員と同席して、行政事務を円滑に執行するための飲食を伴う懇談それ自体を目的とする会合に私人が参加することは、不名誉若しくは嫌悪すべき事柄ではないから、右会合に参加した私人が懇談の事実の公表に反対するとは考えられず、この場合も特別な事情がない限り開示義務は免除されない。

したがって、本件非開示部分一ないし一〇は、九条一号には該当しない。

(三) 被告ら主張の同号の解釈について

被告らの主張によれば、およそ「自然人が特定される情報」一般について解除義務が免除されていることになると思われるが、右主張によれば、「個人に関する情報」が公開されることはおよそあり得ないことになると思われる。しかし、被告らの現実の取扱いにおいては、「自然人が特定される」情報が一切非開示とされているわけではなく、被告らの開示・非開示の判断は、「自然人が特定されるかどうか」という基準以外の基準によりなされている。

3  九条二号(事業情報)について

(一) 同号の趣旨

同号は、営業の自由、財産上の権利・利益の保障、公正な競争秩序維持と公文書開示請求権の保障との調和の観点から、法人等の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められる情報については、一定の場合を除いて非公開とすることができるとしたものである。

そして、同号によって開示義務が免除される情報は、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用なる技術上又は営業上の情報にして公然知れていないもの(不正競争防止法一条三項参照)に該当する情報であって、それらに実質的な被害が客観的に生じる場合」に限られるというべきである。したがって、ノウハウや営業秘密に該当しないような情報については、開示義務が免除されることはない。

(二) 本件文書一、四、九、一〇について

本件文書一、一〇の請求書等に記載された債権者名、口座名等及び本件文書四、九の復命書に記載されている法人名等は、業者が秘密に管理している性質の事柄ではなく、当該業者が一般に発行する請求書や領収書に記載されているものであって秘匿性は全くない。店の社会的評価や商品の値段設定等は、飲食店自身が広く宣伝し、一般に知られている事柄である。

右各非開示部分の情報を開示することにより明らかになるのは、懇談会に利用された場所、名称、日時、飲食に係る料理等の売上合計金額及び支払先の金融機関名、口座番号等であって、業者の営業上の有形、無形の秘密、ノウハウ等とは無関係であるばかりか、道路建設課、監査委員事務局という特定の顧客のこれらの業者の一定期間の利用状況が明らかになるにすぎないのであるから、本件非開示部分一、四、九、一〇を開示することによって、当該業者の事業活動が損なわれることはなく、当該業者の競争上の地位が害されたり、社会的評価の低下その他正当な利益を害されることはあり得ない。

したがって、本件非開示部分一、四、九、一〇は、いずれも九条二号に該当しない。

4  九条三号(行政内部情報)について

(一) 同号の趣旨

同号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から規定されたものであり、同号に該当するためには、①行政の意思形成過程における審議、検討、調査研究等に関する情報でなければならず、しかも②開示することにより当該又は同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障が生ずるおそれがあることが必要である。

(二) 本件非開示部分四について

本件非開示部分四は、県の旅費支出に関する復命書の一部であり、右①に該当しないし、かつそれを開示することにより同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障を生じるおそれは具体的に考えられない。

(三) 本件非開示部分一一について

本件非開示部分一一は、県の不正公金支出問題に関して設置された調査委員会の調査によって得られた情報に関する文書であり、右委員会の設置目的は、不正公金支出の実態解明と県民への説明・公表であったものであり、右非開示部分の情報は、右委員会が右目的に基づき実態調査をした結果そのものに関する情報であり、意思形成過程における情報ではない。

本件文書一一に記載の情報は、個々の職員からの情報を課ごとの単位で積み上げたものであり、職員の調査委員会に対する旅費の支出に関する報告は、情報の任意の提供ではなく、職務上の義務としてなされたものであり、右情報は、外部からの信頼・協力関係に基づいて提供された情報、第三者の任意の協力による情報、公にしないことの条件を明示している情報、開示すると信義則に反する情報とはいえない。

したがって、被告らが主張するような、県民に不正確な理解や誤解を与えたり、一部の利用者に不当な利益を与えたりするおそれ、同種の企画審議等において自由な意見交換が期待できなくなるおそれ、公にしないことを前提とする情報の開示による将来の情報収集への支障を生じるおそれ等はなく、右②に該当しない。

また、九条三号は、当該あるいは同種の県の機関が反復継続して活動することを予定しているが、調査委員会は、県のカラ出張疑惑を解明するために設置されたものであり、一時的、臨時的機関に過ぎず、しかも右疑惑の実態解明と県民への説明・公表という被告知事の県民に対する責任を実効あらしめることを第一義的な使命としていることから、調査委員会は、同号が予定する県の機関ではない。

本件文書一一の情報は、カラ出張の実態解明という調査委員会の目的そのものであり、各種施策の作成等に当たり収集・作成された資料でも、意思形成過程における情報でもない。

よって、右非開示部分の情報は、右①にも該当せず、同号には該当しない。

5  九条四号(国等関係情報)について

(一) 同号の趣旨

同号は、国等との信頼関係、協力関係を確保するために規定されたものであり、同号により開示義務が免除されるためには、①県の機関と国等の機関との間における指示、依頼、協議等に係る事務事業に関する情報であり、②開示することにより、国等との信頼関係又は協力関係を著しく損なうと認められるものであることを要する。そして、同号の解釈は厳格になされなければならない。

(二) 本件非開示部分四、九について

本件非開示部分四、九は、農政部及び監査委員事務局の旅費支出に関する復命書の一部であり、特に本件非開示部分四において同号に該当することを理由に非開示とされている情報は、協議会等における出席者の県名・職員名、講師の職・氏名であり、これらはいずれも右①に該当しない。また、本件非開示部分四、九は、特に国等で開示が禁止されている性質の情報ではなく、開示されることにより国等との信頼関係を著しく損なうこともなく、右②にも該当せず、同号には該当しない。

6  九条五号(行政運営情報)について

(一) 同号の趣旨

同号は、事務事業の公正かつ適正な執行又は円滑な執行を確保する観点から開示義務を免除したものである。

懇談会が事務事業遂行のための内密の協議を目的とするものではなく、情報交換を円滑に行うべく関係者との一般的情報交換、友好関係を図るための単純な事務打ち合わせを目的とする場合、相手方の氏名等を開示しても、県の事務事業の執行に支障が生じることはないので、同号により開示義務が免除されることはあり得ない。

同号により開示義務を免除されるためには、被告らの側で各懇談会等が同号に列挙する事務事業に該当し、右懇談会等が特定の事業の執行のために必要な関係者との内密の協議を目的としているものであること、非開示部分が開示されることにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生じるおそれがあることを具体的に主張立証する必要がある。

(二) 本件文書一、一〇について

懇談会等における接待の内容等を開示したとしても、それのみによって県政における相手方の位置付け、評価等が定まるわけではなく、相手方が開示された右接待の内容等に関して不満を持ったとしても、右不満には合理的理由がない。また、右接待の相手方が公務員又はそれに準ずる者である場合、右接待の内容に関し不満を持ち、公務の遂行に影響が出るとすれば、それは公務員の服務規律に反するばかりか、贈収賄の問題ともなるのであって、事務事業の執行に支障が生ずることはあり得ない。

したがって、本件文書一、一〇は、同号に該当しない。

(三) 本件文書四について

被告らは、農業振興課が行う事務事業には米の需要調整等があり、右需要調整等に関する情報を開示すると米の計画的な流通が害される等して当該事務事業の公正かつ適正な執行に著しい支障を来すとともに国等との信頼関係を著しく損なうとの理由で、本件非開示部分四を九条五号により非開示とすることができると主張するが、右理由により右非開示部分のどの部分が非開示とすることができるのかについては具体的主張をしていない。

(四) 本件文書一一について

本件文書一一に記載されている情報は、調査委員会の調査によって明らかとなった旅費不正支出額であり、同号が規定する行政運営情報ではない。

被告知事が不正公金支出の実態の解明と県民への説明の責務を果たすことによってこそ、公正かつ適正、円滑な公務執行が実現される。そして、調査委員会は、本件非開示部分一一に係る非開示処分がなされた時にはすでにその活動を基本的には終えていたのであり、調査委員会の設置目的や性格にかんがみれば、右非開示部分を開示しても、県職員の県に対する不信や県職員相互間の不信等を招き、県の事務事業の執行に著しい支障を来すことはなかった。

被告らの主張は、個々の職員を守ることを口実に、県民、県職員の犠牲の上に裏金により不当な利益を享受してきた者や一部県行政幹部を守り、不正、不公正を生み出す構造を改善していく責務を放棄しているに過ぎない。

したがって、本件非開示部分一一は、九条五号に該当しない。

7  本件非開示部分一二について本件文書一二は、実施機関の職員が個人的に作成したものではなく、職務上、公務の実態や公金支出の内容を記録し、庶務担当係長に提出され、課長等の決裁を経る等して、組織的な慣行の下に作成されたものであり、二条の公文書である。

本件文書一二は、県における公金不正支出が発覚する中で被告知事が保全を指示し、その後、県総務部長の下で管理することが命じられたものである。少なくとも実施機関の職員が取得した文書であり、現に実施機関において管理していることが明白な公文書である。

本件非開示部分一二についての公文書不存在決定は違法な非開示処分にほかならない。

第三当裁判所の判断

一  本案前の答弁(本件非開示部分一二)について

1  証拠(甲二四)によれば、被告知事は、平成九年一月二二日付けで、原告に対し、本件非開示部分一二に関して「公文書不存在決定通知書」と題する書面を交付したことが認められる。

2  この点、被告知事は本件非開示部分一二については非開示処分を行っておらず、また、不存在決定通知は行政処分には当たらないから、原告の各請求のうち本件非開示部分一二の非開示処分の取消しを求める部分は、不適法である旨同被告は主張する。

3  しかし、二条の「公文書」が不存在であると判断する場合には、当該文書自体は存在するが、二条の「公文書」の概念に該当しないため、同条の「公文書」としては存在しない旨判断する場合も含まれる。このような場合に不存在決定通知の適否を判断できないとすると、公文書不存在決定通知が濫用される可能性があり、住民の知る権利を具体的に保障するために制定された本条例の趣旨を没却するおそれがある。したがって、公文書不存在決定の適否を判断する必要がある。

ところで、行政処分であるためには、行政庁が行政組織の外部に対して行う一方性を有する行為であって、具体的な規律を加える行為であることが必要であるところ、本件非開示部分一二に関する公文書不存在決定通知は、行政庁たる被告知事が行ったものであり、行政組織からみて外部である原告に対して行われた行為であって、当該文書は「公文書」ではないことを前提にして、原告が本条例に基づいて当該文書を閲覧する権利はないと判断することによって、当該文書を閲覧することができなくなるという不利益を一方的に原告に与えるものであるから、本件非開示部分一二に関する公文書不存在決定は、行政処分であるということができる。

そして、原告は、本件非開示部分一二については、公文書不存在を理由とする非開示処分の取消しを求めているものと解される。

4  したがって、本件非開示部分一二についても、行政処分たる公文書非開示処分が存在するから、右非開示部分についての原告の訴え提起は適法である。

二  本条例が規定する公文書開示請求権の法的性格及び九条各号の非開示事由の解釈指針本条例が規定する公文書公開請求権は、憲法二一条に基礎を置く知る権利に奉仕するものではあるが、直接同条によって保障された権利ではなく、本条例の制定によって初めて具体的請求権として創設された権利であると解される。

したがって、九条各号の非開示事由については、一条の規定する目的並びに三条の規定する解釈及び運用の指針を前提として、その文言に即して合理的に解釈すべきことになる。

三  九条一号該当性(個人情報)について

1  同号の趣旨

同号の趣旨につき、県総務部県政情報課が発行した「情報公開事務の手引」(乙二、以下「手引」という。)には、「個人の尊厳の観点から、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。」等とされており、同号は個人のプライバシー保護のための規定であることが強調されている。

さらに、手引には、同号は「個人のプライバシーを侵害するおそれをあらかじめ予防するため、個人に関する情報が記録された公文書を原則的に非開示とし、個人に関する情報でも開示できるものをただし書で定めたものである」とされており、同号は、イないしハに該当する場合を除き、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものをすべて非開示としなければならない旨を定めていると解されなくもない。

しかし、プライバシー保護(個人的秘密の尊重)が重要な事項は、特定の個人を識別することが可能な情報のすべてではなく、個人の私生活に関する事実である。手引は、「個人に関する情報」の例示として、思想、宗教、意識、趣味等に関する情報、心身の状況、体力、健康状態等に関する情報、資格、学歴、犯罪歴等に関する情報等を挙げており、右例示の内容にかんがみれば、同号により保護が予定されているのは、個人が識別され得る情報のうち、私生活上の事実に関するもので、性質上公開に親しまないような個人情報であると解するのが相当である。

2  公務員について

公務員については、その職務執行に際して記録された情報に含まれる当該公務員の氏名や職名等は、当該公務を遂行した者を特定し、場合によっては責任の所在を明示するために表示されるにすぎないものであって、それ以上に右公務員の個人としての行動ないし生活に関わる意味合いを含むものではない。したがって、その限りにおいてはプライバシーが問題になる余地はない。本条例が、九条において、事業を営む個人の当該事業に関する情報を一号の個人情報から除外して、二号の事業情報として扱っているのも、この趣旨によるものと解される。手引の例示する個人情報にも公務員の氏名や職名等は掲げられていない。情報公開制度との関係でいえば、県民の側としては、県政に対する理解を深めるため(一条)には、これを遂行した担当者及び職務上その相手方となった者等についての情報もできるだけ具体的に開示される必要がある。そうすることによって初めて、実際に行われた県政の検証、その当否の判断が可能ともなるのである。したがって、このような情報は原則として「個人に関する情報」には当たらないものと解すべきである。もっとも、このようにして公務員が役職や個人名等を知られることにより、その生活の平穏を不当に侵害される場合も考えられないわけではなく、そのような場合には、当該情報は、公務員個人の私生活上の事実として個人情報としての色彩を帯びることになるが、このような特別な事情の存在は、非開示事由に該当するための要件として具体的に主張立証されなければならない。

3  本件各処分についての検討

そこで、右解釈を前提に、本件各処分のうち同号に該当するとして非開示とされた情報が同号に該当するか否かについて検討する。

(一) 証拠(甲二の2ないし4、四の2ないし11、六の2、八の3ないし11、一〇、一二、一四の2ないし5、一六の2・3、一八の2ないし7、二〇の2ないし4、乙四の1ないし4、五ないし九)によれば、被告らが同号に該当するとして非開示としたものは次の各部分であることが認められる。

(1) 本件非開示部分一、一〇のうち、懇談会(宴会、会食、茶菓代、昼食代等を含む。以下「懇談会等」という。)の目的、懇談会等への出席者(出席予定者、欠席者、決裁者、係、精算者、領収者、担当者、資金前渡職員、履行確認者、被請求者等を含む。以下「出席者等」という。)の氏名、印、所属名、職名、県名等

(2) 本件非開示部分二、七の全て、すなわち、職名、職業、氏名、旅行者番号、職務の級欄、用務欄、旅行命令権者印、旅行者印、摘要欄等

(3) 本件非開示部分三、八の全て、すなわち、職務の級、職名、氏名、請求印、計算額、支払額、精算額等

(4) 本件非開示部分四、九のうち、出張先(旅行先、宿泊先、出発場所、打ち合わせ場所等を含む。以下「出張先等」という。)、協議会(交流会、シンポジウム、フォーラム、大会、委員会、会議、総会、理事会、講習会、検討会、研修会、研究会、説明会、講義、査定会、昼食会等を含む。以下「協議会等」という。)への出張目的、出張先等、協議会等への旅行者(出張者、出席者、研修者、起案者、あいさつ者、発表者、説明者、報告者、担当者、資料作成者、質問者、議長、座長、講師、パネリスト、コーディネーター、助言者、司会者、合議者、主催者、班長、決裁者、報告書提出者、報告書作成者、担当監査委員、調査者、退任者等を含む。以下「旅行者等」という。)の氏名、印、職名、所属部課、所属機関、所属都道府県・市町村名、所属地方名、区分、団体名、電話番号、班名、経験年数、部屋番号、備考欄等

(5) 本件非開示部分五、六の全て、すなわち、出勤簿の全て

(二) 本件非開示部分一、一〇(食糧費支出に関する資料)の九条一号による非開示部分について

(1) 本件非開示部分一、一〇に係る懇談会等は、私的な懇談会等ではなく、県の予算を用いて開催された会合であり、県民には税の使途を監視するために可能な限り具体的な情報の開示を受ける利益があることを考えると、この出席者等が道路建設課、監査委員事務局等の職員及び国等の担当職員等の公務員である場合には、右懇談会等の出席者等は、いずれも右懇談会等に公務員の職務の遂行として出席しているのであって、懇談会等の目的、懇談会等の出席者等として記載されている個人の氏名、印、所属名、職名、県名等は、特定の個人が識別され又は他の情報と組み合わせることによって特定の個人が識別され得る情報ではあるものの、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開に親しまないような個人情報に当然に該当するということはできない。

公務員の職務遂行に際して記録された情報に含まれる懇談会等の目的、当該公務員の氏名等の情報は、本来、事務事業の執行上又は行政の責務として、当該事務事業に支障のない限り県民の要請に応じて公表することが予定されているというべきであり、これを開示することにより当該公務員の私生活上の平穏が侵害されるとは考え難いから、たとえ、当該公務員がこれを公表されることについて了解していなかったとしても、右情報は、社会通念上公表が予定された情報と解するのが相当である。このことは、当該公務員が懇談会等の主催者側であると相手方であると異ならないというべきである。

そして、本件では、懇談会等の目的、懇談会の出席者等の氏名、印、所属名、職名、県名等が開示されることにより、右出席者等の私生活上の平穏が不当に侵害されることの具体的な主張立証がなされているとは認められないから、右懇談会等の目的、右出席者の氏名、印、所属名、職名、県名等は、九条一号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。

(2) 右懇談会等の出席者等(懇談会等の相手方等)が公務員以外の者である場合には、右懇談会等に出席等することは公務には当たらないものの、公費による県職員との懇談会等は、公的なもので、公務に準ずる公益的な事業に関する会合であり、その公務員以外の者の氏名、職名等は、その事業の相手方担当者として表示されるにすぎないから、相手方にとっても私生活上の事実に関する情報とは言えず、性質上公開に親しまない個人情報に当然に該当するということはできない。

そして、懇談会等の目的、その公務員以外の者の氏名、印等が開示されることにより、その者の生活の平穏が不当に侵害されることの具体的な主張立証がなされているとは認められないから、右目的、右氏名、印等は、九条一号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。

(3) したがって、本件非開示部分一、一〇が九条一号本文に該当すると認めることはできない。

(三) 本件非開示部分二ないし四、七ないし九(旅費支出に関する資料)の九条一号による非開示部分について

(1) 右各非開示部分の旅行者等による出張は、いずれも当該職員が公務員の職務の遂行として行ったものであるから、旅行命令簿、旅費請求書(票)、復命書中の出張目的、旅行者等の氏名、職名等については、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開に親しまない個人情報に当然に該当するということはできない。

また、右出張目的、氏名、職名等が開示されることにより、当該旅行者等の生活の平穏が不当に侵害されることの具体的な主張立証がなされているとは認められないから、右出張目的、氏名、職名等は、九条一号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。

(2) また、本件非開示部分四、九のうち出席者、講師等(公務員以外の者を含む。)の氏名、職名等については、証拠(乙五ないし七)によれば、出張先等における協議会等は公的会合であって、出席者、講師等が私事としてこれらに出席したものではないと認められる。

したがって、出席者、講師等の氏名、職名等は、公務の関係者として表示されるにすぎず、出席者、講師等にとっても私生活上の事実に関する情報とはいえず、性質上公開に親しまないような個人情報に当然に該当するということはできない。

そして、出張目的及び右氏名、職名等が開示されることにより、出席者、講師等の私生活上の平穏が不当に侵害されることの具体的な主張立証がなされているとは認められないから、右出張目的、氏名、職名等は、九条一号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。

(3) よって、本件非開示部分二ないし四、七ないし九が同号に該当すると認めることはできない。

(四) 本件非開示部分五、六(出勤簿)の九条一号による非開示部分について

(1) 証拠(乙四の1ないし4)によれば、出勤簿中、現住所欄以外の部分は、当該職員の出勤、年休、病欠等の事実を示すものであることが認められる。

右事実、特に年休、病欠、産休等を取った旨の記載は、当該職員の私生活上の事実に関わる面を有するということもできる。

しかし、証拠(乙四の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、出勤簿は、当該職員の全体的な服務状況を把握するためのものであって、人事や給与計算等の資料となるものであり、公務の遂行に関わる情報であること、また、出勤簿からは、年休、病欠、産休を取ったという事実が判明するのみであって、年休の理由、病欠した場合の病名等の年休、病欠、産休等に関する詳細な事情が判明するものではないことが認められる。

したがって、出勤簿中の現住所欄以外の部分は、性質上公開に親しまない個人情報に当然に該当するということはできず、また、右部分が開示されることにより当該公務員の私生活上の平穏が不当に侵害されることの具体的な主張立証がなされていると認めることはできないから、右部分は、九条一号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。

(2) これに対し、出勤簿中の現住所欄に記載の当該公務員の住所、電話番号等は、私生活上の事実の側面を有し、右情報が開示されてしまうと、いやがらせ電話、ダイレクトメール等がなされることにより、当該公務員の私生活上の平穏が不当に侵害されることが容易に想定できるから、性質上公開に親しまない情報ということができる。したがって、右現住所欄記載の事実は、九条一号により保護が予定されている情報であると認められる。

(3) よって、本件非開示部分五、六のうち、現住所欄以外の部分は同号に該当しない。しかし、右現住所欄の部分については、同号に該当するものと認められる。

四  九条二号該当性(事業情報)について

1  同号の趣旨

(一) 同号の趣旨は、法人等及び事業を営む個人の事業活動は、今日、住民生活の多方面にわたり影響を与えるものであるから、住民にとって、右事業活動に関する情報は重大な関心事であり、行政機関の保有するこれらの情報についても原則として開示されるべきであるが、他方、法人等及び事業を営む個人の営利活動の自由も尊重されなければならず、情報公開制度の下にあってもその正当な競争活動等を侵害してはならないという見地から、県が保有するこれらの者の事業に関する情報のうち、開示されることによって競争上の地位を害する等その事業活動に不利益が生じると認められる情報については、一定の場合を除き、開示しないことができるとしたものと解される。

(二) そして、手引によれば、同号の「当該事業に関する情報」とは、「事業内容、事業所、事業用資産、事業所得など事業活動に直接関係する情報」であるとされ、また、「競争上の地位その他の正当な利益を害すると認められるもの」とは、「当該情報を開示すれば事業を営む者が競争上不利益を被ると認められる情報であって、自由かつ公正な経済秩序を維持するために、社会通念上法人等が秘匿することを認められているもの」(例えば、「生産技術上のノウハウ、営業、販売上のノウハウ」等。)や、「直接競争上の不利益は被らなくても、開示することにより、事業を営む者の名誉侵害又は社会的評価の低下となる情報及び結社の自由を保障し、経済秩序を維持するために社会通念上事業を営む者の内部事項に属すると認められる情報」(例えば、「信用上不利益を与える情報、人事、経理等に関する情報」等。)であるとされている。

2  本件各処分についての検討

右解釈を前提に、本件各処分のうち同号に該当するとして非開示になった情報が同号に該当するか否かについて検討する。

(一) 証拠(甲二の2ないし4、八の3ないし11、一八の2ないし7、二〇の2ないし4、乙五ないし九)によれば、被告らが同号に該当するとして非開示としたものは次の各部分であることが認められる。

(1) 本件非開示部分一、一〇のうち、債権者(業者、請求者、店、問い合わせ先、担当者等を含む。以下「債権者等」という。)の氏名、印、住所、電話番号、ファックス番号、郵便番号、債権者番号、振込先銀行名、同支店名、口座の種別、口座番号、口座名義、懇談会(宴会、会食等を含む。)開催場所の所在地、名称等

(2) 本件非開示部分四、九のうち、出張先等、協議会等の所在地、会場名、電話番号等

(3) 本件非開示部分九のうち、職員数欄、その下部に記載の情報、自己監査の概要欄

(二) 本件非開示部分一、一〇(食糧費支出に関する資料)の九条二号による非開示部分のうち、懇談会等の場所、債権者等の氏名、債権者番号等について

被告らは、利用者に関する情報は、その蓄積によって業者自身の社会的評価の形成につながり、業者にとって、どの客にいくらで飲食を提供しているかという事柄は、場合によっては是非とも秘匿したい情報であることが予想され、右情報は、ノウハウに類似し、また、債権者番号は、業者が事業を営む上で必要かつ重要な内部事項に属する情報である等と主張する。

しかし、確かに、右各情報が開示されれば、債権者である飲食業者における道路建設課、監査委員事務局という特定の顧客の一定期間の利用状況や、どの程度の単価で飲食物等の提供を行ったかについては明らかになるが、それ以上に当該飲食業者の営業上のノウハウや経営方針又は営業の実態等が明らかになるわけではない。したがって、右の事実が明らかになることによって、当該法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれるとは認められない。

よって、本件非開示部分一、一〇の懇談会等の場所、債権者等の氏名等が九条二号に該当すると認めることはできない。

(三) 本件非開示部分一、一〇(食糧費支出に関する資料)の九条二号による非開示部分のうち、口座に関する情報について

口座に関する情報は、一般に発行される請求書にも記載されている場合があり、顧客に対する関係では、いわば公にされているともいえるが、本来、右情報は、法人や個人がその事業活動を営む上で必要な金銭の出納又は事業資金の管理等に関する重要な内部情報であり、相手方によっては、秘密に属すべき情報であって、その公開、非公開は、もっぱら当該法人や事業を営む個人の自由な選択に任されるべきものと解される。そうすると、右情報を当該業者の同意もなく、一般に公開することは、まさに事業を行う者の正当な利益を侵害することが相当程度の蓋然性をもって考えられるというべきである。

したがって、右情報は九条二号に該当するものと認められる。

(四) 本件非開示部分四、九(旅費支出に関する復命書)の九条二号による非開示部分のうち、右(一)(2)の部分

旅費支出に関する復命書中の出張先等、協議会等の所在地、会場名、電話番号等の情報は、当該法人等及び事業を営む個人の営業上のノウハウや経営方針等として秘密に管理されなければならないものであるとは認め難く、その公開によって競争上の地位その他の正当な利益が損なわれると認めることはできない。

したがって、右情報が九条二号に該当すると認めることはできない。

(五) 本件非開示部分九(旅費支出に関する復命書)の九条二号による非開示部分のうち、右(一)(3)の部分

証拠(乙七)及び弁論の全趣旨によれば、右部分は、監査対象となった財政的援助団体等に関する調査報告書の一部であること、右調査においては、財政援助団体等の財務会計処理、経理事務についての監査がなされたこと、職員欄及びその下部に記載されている部分には構成員の数、自己監査の概要欄には内部監査の結果等が記載されていることが認められる。

したがって、右構成員の数等の情報は、人事に関する情報であり、右内部監査の結果等の情報は、財務会計、経理に関する情報であるから、これらの情報は、当該団体の信用に関わるものであり、開示されることにより営利目的の団体の営業利益や、非営利目的の団体の結社の自由、表現の自由等の人格価値といった団体の活動利益を侵害するおそれが高い。

よって、これらの情報は、同号の「その他の正当な利益を害すると認められるもの」に該当するというべきである。

五  九条三号該当性(行政内部情報)について

1  同号の趣旨

同号の趣旨につき、手引は、「行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点」から同号を定めたとし、「行政における内部的な審議等の意思形成過程における情報は、県民参加の県政推進という情報公開制度の趣旨・目的からは、可能なかぎり開示されるべきである。しかしながら、それらの情報のなかには、審議等が、行政における内部的な意思決定に至るための検討段階であったり、自由な意見交換の場であったりするために、担当者レベルの検討素案や機関の意思が未決定の検討案のように、未成熟、不正確な情報や、検討材料として外部から信頼関係、協力関係に基づき任意に提供された情報が多い。これらの情報が開示されると、県民に不正確な理解や誤解を与えるおそれ、又は一部の利用者に不当な利益を与えるおそれがある。また、将来の同種の審議等において、行政内部における自由闊達な意見交換が妨げられたり、第三者との信頼関係、協力関係を損ない、以後の情報収集に支障を生じたりするおそれ」があり、これらを防止する趣旨で同号が定められたとする。

そして、手引は、「開示することにより、当該又は同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」の例として、①行政内部での審議、協議のために作成した資料、②行政内部での担当者等の会議における意見交換の記録、③行政内部での調査、検討のために作成した資料、④国等との間における審議、検討、調査研究等に関する資料、⑤行政委員(会)、審議会等の資料、記録を挙げる。

また、「手引」は、「開示することにより、当該又は同種の審議、検討、調査研究等に著しい支障を生ずるおそれのあるもの」の分類として、①未成熟、不正確な情報のため、開示することにより県民に不正確な理解や誤解を与えるおそれのあるもの、②開示することにより、一部の利用者に不当な利益を与えるおそれのあるもの等挙げている。

2  本件各処分についての検討

(一) 証拠(甲八の3ないし11、乙五、六)及び弁論の全趣旨によれば、被告知事が同号に該当するとして非開示としたものは次の各部分であることが認められる。

(1) 本件非開示部分四の復命書のうち、別表1記載1ないし10、12、19ないし26、28ないし30、32ないし40、43ないし45、47ないし57の各部分

(2) 本件非開示部分一一の全て

(二) そこで別表1記載の右各部分について検討するに、証拠(甲八の3ないし11、乙五、六)及び弁論の全趣旨によれば、右部分が開示されることによって、出張先等、協議会等の外形的事実に止まらず、次のような点も明らかになることが認められる。

(1) 別表1記載1 九州農政局と九州各県との間における、平成六年度の米の生産調整に係る国の見通し、九州各県における営農家指導・ヤミ米対策の方針、平成七年度政府予算に係る要望・それに対する農政局の考え方、方針等についての情報交換、協議内容

(2) 別表1記載2 当該市町村における定住圏事業推進に係る未確定の情報

(3) 別表1記載3 参加各県と国との間でのカントリーエレベーター(米穀貯蔵施設)導入における現状と課題についての検討内容、当該製品の市場全体に対する国の評価や導入に当たっての予定価格設定の方針、導入する際の補助金の査定方針等の情報

(4) 別表1記載4 農林水産省と各都道府県間における、平成七年度以降の政府予算に対する各都道府県の要望、それに対する農林水産省の考え方、方針等についての情報交換、協議内容

(5) 別表1記載5 農村総合整備計画に関する事業の推進状況と今後の事業推進の方針に関わる内容

(6) 別表1記載6 農林水産省と九州各県との間における、今後の自主流通米の買入・生産枠設定等の方針等についての審議、検討内容

(7) 別表1記載7 先進的農業生産総合推進対策事業の推進についての、国の補助制度のあり方等に関する各県の要望事項の内容、それに対する国の方針等の情報

(8) 別表1記載8 水田営農の活性化対策(転作等)に係る各県と国との質疑内容であって、農政審も結論を出していない情報

(9) 別表1記載9 水田営農の活性化対策(転作・他用途米の県内調整・潜在水稲作付け面積等)について、国と九州各県との間の質疑応答内容、農水省の米生産能力に関する予測、それに基づく生産調整の方針等の情報

(10) 別表1記載10、24、36 県と国との間の、米穀販売業の新規参入問題、米穀の需給調整問題等についての検討、協議内容、新規参入を認めることについての国の考え方や選定基準策定の経過等の情報、平成六年度米の需給についての国と県との個別の折衝内容、特定の業者名を挙げた上での不正規流通に関与する業者に対する取締り、監督、検査の方針等についての協議内容

(11) 別表1記載12 国と都道府県との間の、食糧管理法の米穀小売業者の新規参入の規制緩和に関し、どのような業種に新規参入を認めるか等についての協議、検討内容

(12) 別表1記載19 農水省からの情勢報告としての、概算予算要求段階である農業構造改善対策の次年度事業予定等の情報

(13) 別表1記載20 農水省による水稲育種の方法や栽培技術、機械化等の今後の課題等の情報、農事組合法人による直播を導入した大規模低コストの取組み等に係る情報

(14) 別表1記載21 農水省における補助事業の改変、廃止、ガット特別対策等、次年度の概算要求の内容、方針等の情報、大規模営農の促進を目的とする認定農業者制度の特定の県における運用事例等の情報

(15) 別表1記載22 「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」の説明会の質疑における、当時まだ施行されていない規則、通達等によって定められるべき具体的な運用方針等の情報

(16) 別表1記載23 大型稲作技術の一つである直播に係る他県調査結果の一部に記載されている、特定の条件下で測定された数値

(17) 別表1記載25 農水省と九州各県及びその他関係者との間における、湛水直播技術(水田に水を溜め、種籾を直接播く技術)向上のための、現地における検討、討議内容

(18) 別表1記載26 農水省、九州各県及び麦作に係る関係機関の間における、今後の麦作推進に関する要望内容等の情報

(19) 別表1記載28 農水省との間における、麦主要産地形成特別事業についての協議、検討内容

(20) 別表1記載29 県北東部地域が地方拠点都市地域の指定を受けるための、国の各省庁との間のヒアリング内容

(21) 別表1記載30 山村振興等農林漁業特別対策事業の説明内容のうちの未成熟、未確定の情報

(22) 別表1記載32 平成七年度予算概算の内示額、同年度農業生産体制強化総合推進対策事業の実施方針、補正予算の繰越処理方針等についての協議内容、会計検査に係る情報であって、国等で公表していない詳細な結果

(23) 別表1記載33 平成六年度予算の繰越処理方針、当該協議会の平成八年度会費問題等についての協議内容

(24) 別表1記載34 精米表示における産地表示に係る県の行政指導の考え方、方針等の情報

(25) 別表1記載35 国と七都府県間における米の適正な流通確保のための協議内容、小売業者が行う不正規流通関与の対策等の情報

(26) 別表1記載37 ハトムギの作況や市場価格等に関する見通し等の情報

(27) 別表1記載38 麦作を推進するための具体的な取組み状況や今後の方策等の情報

(28) 別表1記載39 農山漁村滞在型余暇活動基盤整備事業実施に関する各県からの質問、意見、それに対する国の回答

(29) 別表1記載40 米の消費拡大や米飯学校給食の推進等についての国からの各都道府県に対する注意事項としての指導内容等、国等において公表していない情報

(30) 別表1記載43 農水省と関係都道府県との間における、直播技術向上のための検討、討議内容であって、開発途上の未確定な技術上の情報

(31) 別表1記載44 農村総合整備計画についての、今後の国の事業推進計画や国において公表していない予算の方針等に関する情報

(32) 別表1記載45 水稲の生産調整(減反)対策等に係る検討内容、次年度の生産調整面積の算出基礎となる作付け予定面積や同見込み面積等の情報

(33) 別表1記載47 九州各県からの他用途米の契約(販売)量の報告(次年度の水稲の作付け目標面積の算出基礎となるものであって、生産調整に係る情報である。)

(34) 別表1記載48 九州農政局と九州各県との間での平成六年度における生産調整の実施見込みに係る協議における各県からの目標面積の達成見込み等の報告内容

(35) 別表1記載49 九州各県における認定農業者の認定予定数や「経営改善支援センター」の設置予定時期等の情報

(36) 別表1記載50 九州各県の翌年度における各県単独事業の計画や方針及び国における予算の見込み等の検討、協議内容であって、国や関係県において公表されていない情報

(37) 別表1記載51 ないし53 次年度における米の生産調整(転作)の方針等の情報

(38) 別表1記載54 九州各県と九州農政局及び各気象台との間における平成六年の気象の状況や、気象と農業生産被害の関わり、及びその対策等についての協議内容、九州農政局がとりまとめた気象被害の速報や被害軽減のための検討等の情報

(39) 別表1記載55 九州各県と九州農政局との間における、農業経営基盤強化促進法の一部改正に伴う運用方針についての協議、検討内容

(40) 別表1記載56 未だ確定されていない「農業生産体制強化総合推進対策事業要領(案)」についての、九州農政局と九州各県との間における、協議、検討内容

(41) 別表1記載57 九州各県と九州農政局及び関係機関との間における、水田営農活性化事業についての協議、検討内容

したがって、右各部分は、行政内部の審議、検討段階における情報であって、未確定、未成熟な情報が記載されていることが認められる。

よって、右各部分が開示されると、右記載の各情報につき県民に不正確な理解や誤解を与えるおそれががあり、また、将来の同種の審議等において、行政内部における自由闊達な意見交換が妨げられたりするおそれがあるといえるから、右各情報は、九条三号に該当するというべきである。

(三) 次に、本件非開示部分一一について検討する。

(1) 証拠(乙一二)によれば、調査委員会は、県知事部局における旅費の執行状況の実態を調査し、適正化のための方策を検討するために設置されたものであることが認められる。

(2) そして、証拠(乙一一)によれば、旅費の執行状況についての調査は次のようなものであったこと、その結果調査報告書が作成されたことが認められる。

① 職員が、旅行命令簿を復命書、業務日誌、業務計画書、旅行命令補助簿、本人の手帳等と照合して、旅行命令の全てについて自己点検を行う。

② 所属長が、職員からのヒアリングや証拠書類との照合を行い、職員の自己点検の内容を確認集約し、各部調査班に提出する。

③ 各部調査班が、所属長からのヒアリングや証拠書類との照合を行い、所属長報告の内容を確認集約し、プロジェクト・チームへ提出する。

各部調査班が必要に応じて、職員からのヒアリングを実施する。

④ プロジェクト・チームが、各部調査班長からのヒアリングを行い、各部調査班報告の内容を確認集約するとともに、問題点を把握し、委員会へ報告する。

⑤ 調査委員会が、各部調査班等の調査状況を点検し、必要に応じて自ら関係者からのヒアリングを実施する。また、報告された内容の信頼性を確保するために、旅行実態があると報告した職員の用務先と宿泊先に対して、事実の有無を確認する郵送調査を抽出により実施する。

(3) 右によると、本件非開示部分一一は、県の機関内部又は機関相互間の情報であって、旅費の執行状況に関する「調査研究等」に係る情報であり、さらに、調査過程における未確定の情報であり、また、旅費執行の適正化のための方策提言のための検討段階における情報でもあるということができるから、右非開示部分が開示されると、旅費の執行状況に関する不正確な情報が開示されることになり、右執行状況につき県民に不正確な理解や誤解を与えるおそれがある。

(4) よって、右非開示部分記載の情報は、九条三号に該当するというべきである。

六  九条四号該当性(国等関係情報)について

1  同号の趣旨

同号の趣旨につき、手引は、「県の行政は、国及び他の地方公共団体の行政と密接に関係し合い、信頼関係、協力関係を維持しながら遂行されている。したがって、開示することにより国等との信頼関係、協力関係を損なう情報については、国等との信頼関係、協力関係を確保する観点から、適用除外とするものである。」とする。そして、同号に該当すると考えられる情報の例として、①国等との協議会等の資料であって、国等で公表していないもの、②機関委任事務に係る情報で、通達等で開示が禁止されているもの、③国の会計検査、行政監察に係るもので、国で公表していない情報、④国等の依頼又は委託による調査で、依頼団体等の承認なしに公表してはならない旨の指示があるもの、⑤国等の事務事業に関して県に協議を求められているもので、国等においても開示していないもの等を挙げている。そして、同号の趣旨にかんがみれば、公表してはならない旨の明示の指示がなくても、公開することにより当該事業等の目的又は公正、適正な執行が損なわれるおそれがある情報も同号に該当するものと解される。

2  本件各処分についての検討

(一) 証拠(甲八の3ないし11、一八の2ないし7、乙五ないし七)及び弁論の全趣旨によれば、被告らが同号に該当するとして非開示としたものは次の各部分であることが認められる。

(1) 本件非開示部分四のうち、別表1記載1、3ないし21、24、25、27ないし29、31、35ないし37、39ないし42、44ないし57の各非開示部分

(2) 本件非開示部分九のうち、別表2記載の各非開示部分

(二) 本件非開示部分四(旅費支出に関する復命書)の九条四号による非開示部分について

(1) 証拠(乙五、六)及び弁論の全趣旨によれば、別表1記載の右非開示部分を開示することによって、次の情報が明らかになることが認められる。

① 別表1記載1、3ないし10、12、19ないし21、24、25、28、29、35ないし37、39、40、44、45、47ないし57については、五2(二)記載のとおりである。

② 別表1記載11 愛知県、安城市における農地保有合理化事業に関し、農地の保有状況やヤミ小作対策等の農家指導の実態に関する情報

③ 別表1記載13 茨城県、千葉県における稲作推進に関する事業の実態や今後の方針、特色ある取組み等の情報

④ 別表1記載14 愛知県、秋田県における水田営農活性化対策の推進に関し、生産調整の具体的方策等の実態や今後の方針についての情報

⑤ 別表1記載15 九州各県における他用途米の価格補償的助成内容に係る情報

⑥ 別表1記載16 富山県、石川県における当該年度の新規事業等に係る内部情報

⑦ 別表1記載17 新潟県、山形県における米生産体質強化事業等に係る内部情報

⑧ 別表1記載18 七都道府県の米穀販売業の新規参入における名義貸し問題の対応や、精米の新鮮度判定方法等に係る情報

⑨ 別表1記載27 北海道における水田営農活性化対策の取組みについての事業の現状や予算の状況等の情報

⑩ 別表1記載31 平成八年度予算陳情について、当該会議を構成する各都道府県間の協議内容

⑪ 別表1記載41 北海道における農業施策の実態等についての情報

② 別表1記載42 岩手県における農業施策の実態等についての情報

③ 別表1記載46 農水省が公表していないウルグアイ・ラウンドの一〇月批准に向けた基本方針

(2) 右各情報は、米の生産・流通に関する事業、営農家指導、政府予算に対する対応、農村総合整備計画に関する事業、先進的農業生産推進対策事業、農地保有合理化事業等の各事業の推進、円滑化、発展等のために、行政機関相互の信頼関係に基づいて提供されたものであり、右情報の中には、右(1)①の情報のように行政内部の意思形成過程情報がある等、右(1)の各情報は、行政機関相互の信頼関係に基づいて任意に提供されたものである。

(3) 右の各種事業は、県のみならず、他の行政機関が密接に関係して総合的に推進されるべきものであり、右(1)の各情報が公開されると国等に不利益を与えるおそれがあり、国等との協力関係・信頼関係を損なうおそれがある。したがって、右各情報は、公開することにより当該事業等の目的又は公正、適正な執行が損なわれるおそれがある情報ということができるから、九条四号に該当するものと認められる。

(三) 本件非開示部分九(旅費支出に関する復命書)の九条四号による非開示部分について

別表2記載の情報は、出席者名簿等における出席者、講師等の県名、職名、氏名、所属といったものであり、右情報が開示されることによって明らかになるのは協議会等の外形的事実にすぎず、右情報自体からは協議会等の個別、具体的な開催目的や、協議内容等が明らかになるものでないことは明白である。

被告監査委員は、右情報が公表を予定していなかった旨主張するが、仮にそうであったとしても、右情報が公表されることにより出席者、講師等が不快、不信の感情を抱いたり、県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれるおそれは、抽象的なものにすぎず、右情報が開示されることにより県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれるおそれがあることを根拠づける具体的な事実についての立証はなされていない。

よって、右情報が同号に該当すると認めることはできない。

七  九条五号該当性(行政運営情報)について

1  同号の趣旨

同号の趣旨について、手引は、「事務事業の公正かつ適切な執行又は円滑な執行を確保する観点から適用除外事項を定めたものである。」とし、同号前段については、「開示すれば当該事務事業の実施の目的を失ったり、当該事務事業の公正性、適切性に著しく支障を生ずるという事務事業の性質に着目したものである。」とし、同号後段については、「事務事業を円滑に執行するため、県は第三者の任意の協力による情報を得ているが、それらは県と当該第三者との信頼関係、協力関係に基づくものであるので、開示することにより一方的に信頼関係、協力関係を著しく損なうことのないよう留意すべきである」としている。

そして、「事務事業の実施の目的が失われ」とは、「取締り、立入検査など事務事業の性質上、それらに関する情報を開示すれば、事務事業を実施しても予想どおりの成果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいう。」とし、「関係者との信頼関係若しくは協力関係が著しく損なわれ」とは、「事務事業を執行する過程において、県は、公にしないことを条件にした第三者の任意の協力による情報を得ているが、それらの情報が開示されると任意提供者との信義則に反する場合などをいう。」としている。

また、「検査の要領、試験問題、交渉結果、設計単価表など反復継続的な事務事業に関する情報のうち、事務事業の実施後であっても、開示することにより、同種の事務事業の目的が失われ、公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずるものは、事務事業実施後も非開示とすることができる。」としている。

手引は、同号に該当する非開示情報の例として、①開示することにより、当該事務事業を実施する目的・意味を失うおそれのあるもの、②開示することにより、県民全体の利益を損なうおそれのあるもの又は特定の者に不当な利益を与えるおそれのあるもの、

③ 開示することにより、反復される同種の事務事業の公正かつ適切な実施を困難にするおそれのあるもの、④開示することにより、関係当事者間の信頼関係、協力関係を著しく害すると認められるもの、⑤その他開示することにより、当該事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずるおそれのあるものを挙げている。

2  本件各処分についての検討

(一) 証拠(甲二の2ないし4、八の3ないし11、二〇の2ないし4、二二、乙五、六、八、九)によれば、被告らが同号に該当するとして非開示としたものは次の各部分であることが認められる。

(1) 本件非開示部分一、一〇(食糧費に関する資料)のうち、目的及び説明欄及び執行伺(内容)欄の一部、出席者の団体、所属等の名称等

(2) 本件非開示部分四のうち、別表1記載の10、12、24、36の各非開示部分

(3) 本件非開示部分一一の全て

(二) そこで検討するに、右(一)の非開示部分が九条五号の非開示事由に該当するか否かは、本件各処分の適法性を基礎づける事項であり、また、当該事務事業の実施の目的が失われ、その公正かつ適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるか否か、又は当該事務事業に関する関係者との信頼関係若しくは協力関係が著しく損なわれ、その円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるか否かについては行政機関側の事情であり、被告らは、右非開示部分の記載内容等を了知しているのであるから、被告らの側で、右非開示部分の開示により、当該事務事業の実施の目的が失われること、当該事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずること、又は当該事務事業に関する関係者との信頼関係、協力関係が著しく損なわれること、当該事務事業の円滑な執行に著しい支障を生ずることを具体的に主張立証する必要があるというべきである。

(三) 食糧費については、交際費等とは異なり、行政事務、事業の執行上直接的に費消されるものであることにかんがみれば、会食を伴った懇談等が、出席者(県職員であろうと、それ以外の公務員、民間人であろうと同じ。)にとって、当然に非公式、非公開である必要のあるものとは認め難い。

もっとも、その目的とする事務、事業が右のように多種多様であることから、懇談の目的とする事務、事業の性質上その開催目的や実施の事実等について関係者間でのみ承知されなければならず、当然に非公式、非公開である必要のあるものがありうるとすれば、懇談等の相手方も、そのように理解してこれに出席していたものである。したがって、相手方の事前の同意なしに所属、氏名等を開示すると、相手方が不信、不快の念を抱き、お互いの信頼、協力関係が損なわれ、以後の懇談等の出席を拒否されたり、率直な意見交換が控えられるようになることもある。しかし、このような非公式、非公開を必要とする特段の事情は被告らが主張立証すべきことになる。

(四) そして、証拠(甲二の2ないし4、八の3ないし11、二〇の2ないし4、乙五、六、八、九)によれば、本件非開示部分一、一〇の九条五号による非開示部分には、懇談会等の目的、執行内容、出席者等の氏名、印、所属名、職名、県名等、債権者等の氏名、印、住所、電話番号、ファックス番号、郵便番号、債権者番号、振込先銀行名、同支店名、口座の種別、口座番号、口座名義、懇談会(宴会、会食等を含む。)開催場所の所在地、名称等の記載があることが認められる。

(五) まず、本件非開示部分一(道路建設課分)につき検討する。

(1) 証拠(甲二の2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、本件非開示部分一の同号による非開示部分に係る協議懇談等は、関係機関の職員等との間における県内の道路整備計画、事業、事業に係る工法、事業の今後の事業促進における問題点、県の道路整備状況・整備計画・橋梁架設等についての調査、道路整備事業間の調整等を目的としていたことが認められる。

(2) 被告知事は、右非開示部分が開示されると、継続的に実施される道路整備事業において、その公正かつ適正な執行に著しい支障を生じたり、相手方との信頼関係が著しく損なわれ、任意の情報提供等を受けることができなくなる等、その円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあること、特定の道路整備事業に関する情報が明らかになれば、用地取得をはじめとする一連の事業の公正かつ適正な執行に著しい支障が生ずるおそれがあること、特定の事業計画等が明らかになれば、当該事業の公正かつ適正な執行に著しい支障が生ずるおそれがあること等を主張する。

(3) しかし、右非開示部分の開示により、支出負担行為決議書兼支出命令書の目的及び説明欄等から、懇談会等の目的すなわち特定の事業名や特定の道路名等が判明し、右事業、右道路に関する事業等についての協議懇談が行われたことが明らかになったとしても、目的及び説明欄等の体裁、記載範囲等からみて、各種道路事業に関する具体的、詳細な執行内容、具体的な協議懇談内容、発言内容等が記載されていると認めることはできない。したがって、本件非開示部分一のうち右(四)の非開示部分を開示することにより、任意の情報提供の受領が困難となること、用地取得等が困難になること等により一連の事業の公正かつ適正な執行に著しい支障が生ずるおそれや関係者との信頼関係、協力関係が著しく損なわれるおそれ等があると認めることはできず、当然に非公式、非公開の懇談である必要のあったこと等の特段の事情の具体的な主張立証がされたということはできない。

(4) よって、右非開示部分が同号に該当すると認めることはできない。

(六) 次に本件非開示部分一〇(監査委員事務局分)につき検討する。

(1) 被告監査委員は、他の都道府県の職員が監査業務について関係県との会議出席のため来県するに際し、監査の実施状況等について情報交換を行って監査実施計画策定の参考にする等、監査業務の円滑な執行に資する目的で実施した協議懇談の出席者の職・氏名等の情報が記載されており、これらの情報は、互いに公表を予定しておらず、県が一方的に開示すれば、他の都道府県との信頼、協力関係が著しく損なわれ、任意の情報提供等を受けることができなくなる等、監査業務の円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがある等と主張している。

(2) しかし、証拠(乙九)によれば、目的及び説明欄等の記載範囲、体裁等からみて、協議懇談の具体的、詳細な執行内容、協議懇談内容等が記載されていると認めることはできず、他の都道府県との信頼、協力関係が著しく損なわれることや、任意の情報提供などの受領ができなくなること等の事実を認めることもできないから、監査業務の円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるということはできない。

また、当該協議懇談が公表を予定していないものであったことの具体的な立証もなされているということはできない。

(3) したがって、本件非開示部分一〇が同号に該当すると認めることはできない。

(七) 本件非開示部分四(旅費支出に関する復命書)につき検討する。

(1) 別表1記載10、12、24、36の各非開示部分には、五2(二)(10)、(11)記載の情報が記載されていることが認められる。

(2) 別表1記載10、24、36に係る協議においては、米の需給調整や米穀販売業者新規参入の規制等に関する協議がされたところ、米の需給調整や米穀販売業者新規参入の規制等の事業は、機関委任事務であって、右協議においては、不正規流通に関する取締り、監督、検査の方針等が特定の業者名を挙げて協議されているものと認められる以上、右各非開示部分を開示すれば、米穀販売業者の取締りや監督等の事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を生じ、取締り、監督等の目的達成が著しく困難となるおそれがあるといえる。

よって、別表1記載10、24、36は、九条五号に該当するというべきである。

(3) 別表1記載12については、米穀販売業者の新規参入の規制緩和に関して、どのような業種に新規参入を認めるか等についての協議に係るものであり、米穀販売業者の取締りの方針や、許可取消しの行政処分を行うに当たっての具体的な手法が記載されているものと考えられるところ、米穀販売業者の新規参入の規制緩和は、機関委任事務であって、右非開示部分が開示されれば、米穀販売業者の取締りや監督等の事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を生じ、取締り、監督等の目的達成が著しく困難となるおそれがあるといえる。

よって、別表1記載12は、九条五号に該当するというべきである。

(八) 本件非開示部分一一(調査委員会の資料)につき検討する。

(1) 調査委員会の設置目的、調査方法等は五2(三)記載のとおりであるところ、本件非開示部分一一は、旅費の不正支出の実態調査、旅費支出執行の改善等の事業に関する情報であり、旅費の支出についての県の機関が行う「取締り、監督、検査」に関する事務事業に係る情報ということができ、また、同非開示部分は、調査報告書(乙一一)作成の前段階における調査の過程で作成されたものであり、調査を確定する過程における未確定の情報である。

(2) 右情報は、県の機関内部で調査等がなされたことによる情報であって、第三者との信頼関係、協力関係を損なうおそれが当然生じるということはできない。

しかし、右情報が開示されると、旅費の支出に関する未確定、不正確な情報を住民が覚知し得ることとなり、右未確定、不正確な情報を前提とした住民の意向の事実上の影響、圧力等を受けた形で、調査の確定作業、旅費支出の改善策の検討等を行わなくてはならないこととなるおそれがあり、旅費支出の実態調査、旅費支出の適切な執行のための改善策の検討等の当該事務事業の実施の目的が失われ、当該事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。

(3) したがって、右非開示部分は九条五号に該当するというべきである。

八  本件非開示部分一二について

1  職務上の作成又は取得について

(一) 手引による定義

手引によれば、「『職務上作成し、又は取得した』とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において、事実上作成し、又は取得した場合をいい、文書等に関して自ら法律上の作成権限又は取得権限を有するか否かを問わない。」とされている。

(二) 「職務上」について

証拠(甲二七)及び弁論の全趣旨によれば、本件文書一二は、旅費の不正支出の実態調査等のために被告知事が県職員に対して保全の指示を出したことにより保全したものであることが認められ、「職務上」被告知事が保全したものであるということができる。

(三) 「取得」について

被告知事は、二条の「取得」とは、当該文書を確定的・最終的に保持し、廃棄といった処分も自らの判断でなし得ることが必要であり、被告知事の職員が本件文書一二を「取得」しているとはいえない旨主張する。

しかし、証拠(甲二五の1ないし15、二七)及び弁論の全趣旨によれば、被告知事は、旅費の不正支出の実態を把握し、その改善策等を検討するために本件文書一二を保全したものであり、右文書は、被告知事が補助機関を用いて事実上取得したものといえる。そして、前記のとおり、右文書の「取得」の有無の判断においては、被告知事の法律上の取得権限の有無は関係がない。したがって、被告知事が右文書についての最終的な保持権限、処分権限等を有している必要はないということができる。

また、本件非開示部分一二の公文書不存在決定通知書(甲二四)においても、被告知事は、不存在の理由の欄の「取得していないため」の欄にはチェックをしていない。したがって、被告知事は、右決定当時、本件文書一二を取得していないとは考えていなかったものと推定できる。

よって、本件文書一二は、被告知事が「職務上作成し、又は取得した」文書であると認められる。

2  その余の「公文書」性の要件について

本件文書一二が、二条の「公文書」であるといえるためには、本件文書一二が「決裁又は回覧等の手続が終了し」、「実施機関において管理しているもの」であることが必要である。しかし、文書が実施機関の職員によって職務上作成され、又は取得された後に相当期間経過した場合には、当該文書は右の各要件をも一応満たしているものと事実上推定されるから、この点については、本件各処分の適法性について主張立証責任を負う被告らにおいて右手続が未了であること等を具体的に主張立証すべきであるというべきところ、右主張立証はない。

3  よって、本件文書一二は、二条の「公文書」に該当し、本件非開示部分一二を右「公文書」に該当しないとしてなされた公文書不存在決定は違法というべきである。

九  結論

1  以上のとおり、本件各処分のうち、次のものを非開示とした部分は、いずれも違法であるから、これを取り消すこととする。

(一) 本件非開示部分一、一〇のうち、債権者等の振込先銀行名、同支店名、口座の種別、口座番号、口座名義が記載されている部分を除いた部分

(二) 本件非開示部分二、三、七、八の全部

(三) 本件非開示部分四のうち、別表1記載の各非開示部分を除いた部分

(四) 本件非開示部分五、六のうち、出勤簿中の現住所欄の記載部分を除いた部分

(五) 本件非開示部分九のうち、職員数欄、その下部、自己監査の概要欄の記載部分を除いた部分

2  また、本件非開示部分一二に係る処分も違法であるから、これを取り消すこととする。

3  そして、本件各処分のうち右1、2以外の次のものを非開示とした部分はいずれも適法であるから、右の部分に係る請求をいずれも棄却することとする。

(一) 本件非開示部分一、一〇のうち、債権者等の振込先銀行名、同支店名、口座の種別、口座番号、口座名義が記載されている部分

(二) 本件非開示部分四のうち、別表1記載の各非開示部分

(三) 本件非開示部分五、六のうち、出勤簿中の現住所欄の記載部分

(四) 本件非開示部分九のうち、職員数欄、その下部、自己監査の概要欄の記載部分

(五) 本件非開示部分一一の全部

4  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古賀寛 裁判官 金光健二 裁判官 秋本昌彦)

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